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RNO--1954
 2011年 3月 本科生講座  
演題       【植物の歴史と生物の多様性】
  講師         中央大学理工学部教授  西田 治文 先生
講演要旨  
 私たちの生活を支えているのは、植物が行う生産である。たとえば、食料が毎年安定して供給されるのは、地球環境が毎年大きく変動せず、作物や自然界の生物生産が全体として一定の状態を保っているからである。これは、地球上に存在する多様な生物が互いにバランスをとりながら機構や水環境などの無機環境を一定の状態に保っているためである。現在の生物多様性は、地球唯一無二の財産で、一度失われれば技術で復活させることはできない。昨年の第10回生物多様性条約締結国会議は一定の成果を見たが、今後は各地域ごとの活動が不可欠となる。今年1月に行った南極での植物化石調査の様子を紹介しつつ、植物を初めとする生物と地球の変動する歴史をたどり、生物多様性の重要性を確認したい。
1.南極での植物化石調査               略
2・植物多様性はなぜ大切か
 被子植物が登場したのは、遅くとも白亜紀の最初期、1億4千万年前である。それ以前の地上は、主にシダ植物と裸子植物の世界であった。被子植物は、花をつけるという特徴がある。花の多くは受粉を主に昆虫に依存したことから、被子植物と昆虫の共進化は白亜紀以降、急速に進んだ。また、被子植物の名が由来する、種子を被うめしべは、種子の成熟にあわせて果実を形成し、ほ乳類をはじめとする動物を利用した種子散布を行うことで、さらに多様化を進めた。新生代前半の温暖期に成立した熱帯雨林において、霊長類が発展を遂げた結果、人類が出現することになる。さらに、今から約3500万年前に、地球全体の気温が約10℃下がり、乾燥化が進んだ両半球の中緯度地域に草原が発達した。穀物の主流であるイネ科の草木か出現しただけでなく、同時に発展したウマやウシなどの大型植食動物は、肉好きのヒトを大いに満足させた。
 植物多様性の歴史は、時間軸に沿って地域ごとに変化する。宇宙に唯一無二、かつ不可逆な減少である。イチョウは裸子植物イチョウ網の唯一の種で、中生代には世界中に多くの種があった。現在では自生地ですら失われ、ヒトが全てを育てている。もし、イチョウが中国中南部の森に生き残っていなかったら、私たちはイチョウ網植物の生きた姿を見ることもなく、茶碗蒸しの具も、力士の髷も違ったものとなったろう。この事実を見れば、多様性の保全は地域的かつ包括的なものでなければならないことが分かる。
 継続的発展をヒトが目指すなら、その持続は少なくとも数万年単位であって欲しい。一方で、現代の種の絶滅は年単位で進んでおり、このままでは地質年代スケールでの右肩上がりの多様性回復を期待するしかない大絶滅にいたる恐れがある。そのような回復のためには、100万年単位の時間を要するというのに、ヒトは現在の生活をなお続けるのだろうか。